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The Algebris Bullet | 2025年10月21日(火)

私たちは先週、IMF年次総会のためにワシントンD.C.を訪れ、世界中の政策立案者、中央銀行関係者、投資家と面会しました。世界のマクロ経済環境は慎重ながらも楽観的な見通しが広がっています。米国の成長は緩やかに減速している一方で、欧州と中国は安定しており、財政・金融政策の緩和的な姿勢が市場を引き続き支えています。
2025年10月21日

私たちは先週、IMF年次総会のためにワシントンD.C.を訪れ、世界中の政策立案者、中央銀行関係者、投資家と面会しました。世界のマクロ経済環境は慎重ながらも楽観的な見通しが広がっています。米国の成長は緩やかに減速している一方で、欧州と中国は安定しており、財政・金融政策の緩和的な姿勢が市場を引き続き支えています。

会議では、AI(人工知能)、新興国市場、貿易摩擦、そしてラテンアメリカの選挙が主要な議題となり、政策の見通しや市場心理に大きな影響を与えました。市場のポジショニングは「不安を抱えたロング(買い持ち)」と表現され、投資家は割高なバリュエーションに警戒しつつも、テクニカル要因に逆らうことができず、あるいはしたくないという心理が見られます。

現在人気のある取引としては、金のロング(買い持ち)、米ドルのショート(売り持ち)、イールドカーブのスティープナー(長短金利差の拡大を狙う取引)などが挙げられます。


グローバルマクロの全体感

2025年10月時点での世界経済は「底堅いが加速はしていない」という慎重ながらも楽観的な見方が広がっています。米国は緩やかな減速局面にあり、欧州と中国は安定的に推移。各国の財政・金融政策は引き続き緩和的で、市場のリスク選好を支えています。インフレは依然として最大のリスク要因であり、目標をやや上回る水準での利下げは容認されつつあるものの、再加速すれば市場のセンチメントを大きく揺るがす可能性があります。

米連邦準備制度(FRB

FRB(連邦準備制度)のスタンスは明確にハト派的である一方、FOMC(連邦公開市場委員会)内の極端な意見は孤立している状況です。関税によるインフレはリスクと見なされているものの、現時点ではデータに明確な影響は現れておらず、GDPや経済活動は労働市場の軟化に伴って緩やかに減速すると予想されています。一方で、AI関連の設備投資が成長に大きく寄与していることから、それ以外の成長要因は抑制されていると見られています。政治的には、ケビン・ハセット氏が次期FRB議長の有力候補とされており、ハト派的な思考、専門性、合意形成能力が評価されています。

注目すべき動きとして、リサ・クック理事の解任に関する裁判所の判断が挙げられます。これが引き金となり、来年にかけて複数の地区連銀総裁の任命が予定されており、FOMCの構成が再編される可能性があります。この変化により、トランプ政権寄りの政策立案者がFRB理事会で多数派を占める可能性があり、制度全体の掌握への道が開かれる可能性も指摘されています。

AI

AIは、すべてのマクロ経済に関する議論において中心的なテーマとなりました。インフラ投資の継続的な拡大や、AI関連の設備投資がGDP成長に与える影響の拡大に対して、市場では広く強気な見方が共有されています。最近の米国の成長加速の約60%がAIによるものとする見方が広がっており、これにより、FRBが他の経済セクターを支援するために利下げを行ったとしても、マクロ経済の基調は堅調に維持されるという期待が強まっています。

欧州

当初のヨーロッパに対する期待感は急速に後退しています。ドイツの財政計画の執行は進行が遅く、マクロ経済の転換点となるには至っていません。成長は崩壊も加速もしておらず、財政拡張派が期待していたような展開にはなっていません。欧州中央銀行(ECB)は依然として様子見の姿勢を取っており、まだハト派的なスタンスを取るには慎重です。ただし、今後利下げに動く場合は、1回ではなく2~3回の利下げが想定されており、2025年第4四半期のデータが軟化すれば、2026年第1四半期に実施される可能性があります。

ウクライナ

ロシアとウクライナの紛争の早期解決は依然として困難であり、トランプ氏がプーチン氏に対して持つ影響力は限定的と見られています。ただし、リスクはポジティブ方向に傾いているとの見方もあります。トマホーク・ミサイルによる軍事的圧力の再強化や制裁緩和が、プーチン氏に妥協を促す可能性があるためです。

トランプ氏は外交政策において一定の成果を上げており、中東情勢が概ね安定したことから、今後はロシアへの関与を強める可能性があります。さらに前向きな兆候として、ゼレンスキー大統領が戦後に退任する意向を示したとされており、現在駐英ウクライナ大使であるザルジニー氏が次期大統領候補となる可能性が浮上しています。

ロシアとヨーロッパ

ロシアは自国の勢力圏を守る意志を強く持っているものの、ヨーロッパに対して直接的な損害を与える意図は明確には見られません。最近の東欧地域でのドローン事件は、ウクライナへの武器供与やロシアの凍結資産の解放をめぐる欧州側の動きに対する牽制と解釈されています。

ヨーロッパに対する即時的な軍事的脅威は現時点では想定されていませんが、仮にエスカレーションが起きるとすれば、東欧を通じて進行する可能性が高いと見られています。また、ロシアの凍結資産による融資に関する議論は停滞しており、実現の可能性は低下しています。

関税

現在の米国政府の関税政策では、同盟国に対して約15%、東南アジアに対して20%、中国に対して35%、敵対的な国に対しては50%の関税が課されています。中国に対する100%の関税は、交渉上のカードとして保持されており、より有利な貿易条件を引き出すための手段とされています。IEEPA(国際緊急経済権限法)に基づく関税は、11月5日に最高裁で無効とされる可能性が高いと見られていますが、同等の実効税率は、別の法的枠組みや再構成された措置を通じて維持される見込みです。政府はこのシナリオに備えており、関税の返金を回避するための代替策も準備済みです。関税は重要な歳入源と見なされており、トランプ氏が株式市場と関税のどちらを優先するかを迫られた場合、関税が優先されると考えられています。

米中関係

最近の米中間の緊張の高まりは、最も注目されたテーマの一つでした。中国はレアアース(希少金属)分野での優位性により、依然として交渉上の主導権を握っていると見られています。

トランプ・習近平会談が実現しないリスクもあり、トランプ氏の方が会談に積極的な様子がうかがえます。両国関係は今後も主に非関税措置(知的財産権の制限、戦略的パートナーの争奪、規制障壁など)を通じて悪化が続くと予想されています。中国では大規模な景気刺激策や経済の再均衡は当面見込まれておらず、貿易戦争が継続すると見られています。

同時に、中国は米国依存からの脱却を加速しており、ラテンアメリカや東南アジアにおける民間および地方政府レベルでの活動が活発化しています。ブラジル、コロンビア、インドネシアなどへの中国の直接投資(FDI)は急増しており、これらの地域からの様々な製品などの需要も倍増しています。

USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)

貿易政策における次の大きな節目は、12月に予定されているUSMCAの再交渉です。焦点は、トランプ氏が現行の枠組みを維持するのか、それともカナダとの統合をさらに深め、メキシコとの条件を再定義するのかにあります。投資家は、実質的な合意に至る前に、米国政府が強硬な発言や大幅な関税引き上げを交渉戦略として用いると予想しています。

米政府閉鎖

政府閉鎖を終わらせるための合意形成に向けた議論では、民主党は政府閉鎖が続くことで医療サービスが制限されるリスクを強調し、世論の支持を得る構図となっています。政府閉鎖は10月31日までに終了する見込みであり、11月に突入すると医療アクセスが制限されるため、それを避ける動きが強まっています。トランプ氏は最後の瞬間まで強硬姿勢を維持する見通しですが、市場は債務上限が当面の懸念事項ではないことからこの問題に対して無関心な状況です。

米国の財政政策

財政政策は4月に比べて注目度が下がっています。関税収入が実質的な財源として機能し始めていることが一因です。市場では、「One Big Beautiful Bill(OBBB)」に基づく刺激策と関税による財源確保という戦略が概ね受け入れられている状況です。米国の成長率は2%強と、目標の3%を下回っているため、中間選挙を前に追加の財政刺激策が打ち出される可能性が高く、住宅や農業分野への政策支援が中心になると見られています。

また、長期金利が5%を超えるようであれば、ベッセント氏がMBS(住宅ローン担保証券)の購入など、非伝統的な手段を取る用意があると報じられています。量的引き締め(QT)の終了など、長期金利の抑制を目的とした政策も今後実現する可能性があります。

中東情勢

「ガザ合意」の第2フェーズ(恒久的な停戦に向けた交渉など)は実現しない見通しですが、イスラエルはそれでも軍事作戦を停止する見込みです。トランプ氏はイスラエルとカタールとの間で強固な合意を取り付けており、ハマスはガザに留まりつつ、湾岸諸国・トルコ・エジプトによる「平和の保証」の下での体制維持が想定されています。この地域における過激派の影響力は歴史的に見ても極めて低い水準にあり、イランは弱体化し、フーシ派やヒズボラも抑制されているとされています。また、アブラハム合意(イスラエルとアラブ諸国の国交正常化)はもはや議題に上っていません。

新興国の中央銀行

新興国の中央銀行は、すでに実質金利が高水準にあるにもかかわらず、タカ派的なメッセージを発信しました。これは、為替(FX)重視の政策へのシフトを示しており、インフレの下振れリスクを示唆しています。利下げが実施されるのは2026年以降と予想されており、多くの新興国は「利下げのタイミングで先行するよりも遅れて動く」姿勢を維持しています。ただし、メキシコだけは積極的に利下げを進めており、FRBの利下げサイクルに追随する見通しです。

ラテンアメリカ

ラテンアメリカは、今後数か月に控える選挙や、米国の関与の高まりにより、引き続き注目すべき地域です。米国は地域政策を積極的に展開しており、影響力を強化し、中国の影響力を抑制しつつ、貿易や資源に関する譲歩を確保することを目指しています。IMF/ESF(国際通貨基金/緊急支援枠組み)はアルゼンチン支援のために引き続き活用されていますが、その条件は依然として不透明です。また、米国主導によるベネズエラの政権交代の可能性が高まっており、来年に予定されているブラジル、コロンビア、チリ、ペルーでの選挙への右派シフトをもたらす可能性があります。

日本

日本では、新政権の発足に注目が集まっています。現時点でのコンセンサスとしては、新政権はトランプ政権との連携を強め、財政拡張的な政策を志向すると見られています。ただし、この方針が日本銀行(BOJ)の金融政策にどのような影響を与えるかは依然として不透明です。

作成:Algebris Investments Global Credit Team

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