平和の配当
地政学リスクとAIへの期待が市場を大きく動かしてきたこの1年の市場環境の中で、株式市場はさらに上昇を続けました。長らく続いていた米国とイランの停戦交渉はついに枠組み合意に至り、ホルムズ海峡が一時的に再開されたことで、原油価格は大きく下落しました。
この安心感による上昇(リリーフラリー)は、世界的なものでしたが、特にアジア市場が主導しました。年初来すでに高いパフォーマンスを示していた日本と韓国は、ともに過去最高値を更新し、日経平均株価と韓国KOSPI指数は、半導体やAIインフラ関連銘柄の堅調さを背景に、1日の取引で異例の上昇幅を記録しました。米国では、6月12日にSpaceXがナスダックに史上最大規模のIPOとして上場し初日に19%上昇を記録したことも市場心理をさらに押し上げ、S&P500指数も過去最高値を更新しています。
一方で、警戒感もありました。新FRB議長のケビン・ウォーシュ氏がタカ派的な姿勢を示し、ドットプロットが年内の利上げの可能性を示唆したことで、株式市場は一時的に下落しましたが、その後は再び持ち直し、全体としては堅調な推移を維持しています。欧州市場も、AI関連テーマへの直接的なエクスポージャーは米国やアジアに比べて限定的ではあるものの、エネルギー輸入への依存度が高いことから、原油価格の下落を受けて大きく反発しました。タカ派的な姿勢を示す欧州秋桜銀行(ECB)は、ユーロ圏のインフレ率上昇をうけて、今回のサイクルで初めて利上げを実施しました。
年初来で見ると、依然としてアジア市場がパフォーマンス面で大きくリードしており、特に韓国や台湾が牽引役となっていますが、米国および欧州市場も引き続き堅調なプラス圏を維持しています。

利益の引力-それ以外はすべてボラティリティ
市場の日々のノイズの奥には一つのシンプルな真実があります。長期的には、株価は企業の利益に追随するという点です。センチメントでも金融政策でもありません。データは明確です。過去30年間、S&P500の1株当たり利益(EPS)の成長率と指数パフォーマンスの相関は約97%に達しています。株式は将来利益に対する請求権であり、市場はその価値を実態から大きく乖離した水準に評価し続けることはできません。
欧州市場はやや異なる特徴を示しています。EURO STOXX 600では、EPS成長率と株価パフォーマンスの相関は約76%と、米国よりも低い水準にとどまっています。これは主に指数構成の違いによるものです。欧州市場は高配当セクターの比率が高く、トータルリターンの相当部分がキャピタルゲインではなく配当によってもたらされているためです。短期的には、株価は金利見通しや流動性、投資家心理によって大きく変動します。企業が過去最高益を計上しても、FRBの一言で株価が下落することも珍しくありません。しかし、そうした「ノイズ」は平均回帰する傾向があります。
株価と価値が数ヶ月、あるいは数年にわたって乖離することはあっても、最終的には利益という「引力」が常に両者を再び引き寄せるのです。だからこそ、短期はトレーダーの世界であり、長期は投資家の世界であると言えるのです。バリュエーションは非常に重要ですが、それはファンダメンタルズではなく、市場の語るストーリーに左右されます。株価収益率(PER)は、金利やセンチメント、そしてその時々の市場の見方によって変動し、楽観局面では拡大し、不安局面では縮小します。これはます。しかし長い目で見れば平均回帰します。
一方で、複利効果をもたらすのは企業利益です。株価が最終的に利益成長に左右されるのであれば、投資のあり方は非常に明確になります。四半期ごとのマクロのノイズに過度に振り回されるのではなく、企業の利益の質や成長の方向性に焦点を当てることが重要です。その企業が成長する理由を理解することー価格決定力、市場シェア、売上の増加がどれだけ利益に結びつくか、資本配分の規律、そして競争環境です。さらに、長期的に利益成長を後押しする構造的なトレンドを見極め、その中で最も有利なポジションにある企業へ投資することです。
財務データでは測れないバリュエーション
2026年6月12日、SpaceXがナスダック市場に上場しました。株価は初日に19%上昇し、企業価値は2兆ドルを超え、史上最大のIPOとして750億ドルを調達しました。上場から数日後には時価総額でAmazonを上回りました。ここで、この比較について一度立ち止まって考えてみる必要があります。
Amazonは年間7,420億ドルの売上と780億ドルの純利益を生み出しています。世界最大級のクラウド事業を運営し、グローバルな物流ネットワークを持ち、さらにデジタル広告市場でも世界3位の規模を誇ります。数字だけを見れば、明らかにAmazonに分があります。
SpaceXは2025年に187億ドルの売上を計上したものの、49億ドルの損失を出しています。売上倍率(EV/Sales)、簡易買収倍率(EV/EBITDA)や利益倍率(PER)といった従来の指標で見れば、SpaceXの評価はAmazonを割安株に見せてしまうほど高い水準にあります。それでも市場はSpaceXを支持しています。なぜでしょうか。
それは、市場が現在の企業価値ではなく、将来なり得る姿を評価しているからです。Starlinkはすでに1,000万人の加入者を獲得しています。ロケット打ち上げ事業はほぼ独占状態にあります。イーロン・マスク氏は2030年までに売上高1兆ドルを目指す構想をに言及しています。投資家が買っているのは、過去の実績ではなく、将来の成長の軌道なのです。
また、浮遊株比率の問題にも注目するべきです。公開されている株式は全体のごく一部にすぎず、これが株価変動を拡大させ、企業の本質的価値の評価を慎重に捉えるべき理由となっています。投資家にとって本質的な問いは、「SpaceXが今日2兆ドルの価値を持つかどうか」ではありません。従来の評価手法に照らせば、おそらくそうではないでしょう。
本当の問いは、「2030年に売上1兆ドルの売上高、世界規模の衛星インターネット、人類の火星移住」といった売り込まれているストーリーに対して、市長が決定するいかなる価格であっても、その一部を保有する価値があるかどうかである。
レバレッジは彼らのバランスシートに、成長は私たちのポートフォリオに
2025年通年で、上位5社のハイパースケーラーは合計1,210億ドルの米国社債を発行しました。これは、2020年から2024年までの年平均280億ドルを大幅に上回ります。さらに2026年上半期だけで、すでに1,690億ドルを発行しており、今年の設備投資計画は7,750億ドルに達しています。なぜ今、これほどまでに負債による資金調達が増えているのでしょうか。
1.キャッシュフロー構造の変化:営業キャッシュフローのほぼ100%を消費しており、これは過去の40%から大幅に上昇しています。設備投資がフリーキャッシュフローを上回ると、企業は債券市場に頼ることになります
2.金利環境:多くの社債は5%未満の低い金利で発行されており、今後数十年にわたって7,000億ドル超のインフラ投資を行う必要があるため、長期資金を現時点で確保しておくことは合理的な財務戦略といえます。
3.タイミング:「自己資金から負債への資金調達シフト」は、サイクル初期ではなく、後半局面に見られる動きです。第1フェーズは株式市場による資金調達、第2フェーズは負債による資金調達(現在)、そしてもし需要が収益に十分結びつかなければ、第3フェーズとして「財務悪化」となるでしょう。
これは先見性のある投資なのでしょうか。それとも高価な投資なのでしょうか。
「ビッグ4(Alphabet、Amazon、Meta、Microsoft)」は、このサイクルの開始時点でレバレッジが1倍未満と非常に低く、積極的ながらも合理性があります。Oracleは異なる状況にあります。2026年通期のフリーキャッシュフローは237億ドルのマイナスとなり、設備投資はガイダンスを57億ドル上回り、5年物CDSスプレッドは昨年9月以降で3倍に拡大しています。すなわち、AI投資のスーパーサイクルは、もはやインターネット時代の潤沢な利益だけで賄われる段階ではありません。現在はクレジットスプレッドや金利環境、さらには投資家の忍耐力に左右される局面に入っています。競争は現実であり、同時にレバレッジの拡大もまた現実です。これこそが、私たちがこれらの銘柄を一切保有しない理由です。
私たちは、AIそのものではなく、それを支える分野、つまりインフラ、電力、冷却、ネットワーク、ソフトウェアツールといった企業に投資しています。これらは、ハイパースケーラーの支出を売上として取り込み、安定的な利益成長につなげ、健全なフリーキャッシュフローを維持し続ける企業です。レバレッジは彼らのバランスシートに残り、利益成長は私たちのリターンとして取り込まれるのです。

作成:Algebris Investments Global Equity Team
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